AIでの言及が増えれば、顧客も増えたと言えるのでしょうか?

AI回答でブランド名が出る割合が増えても、それだけでは顧客が増えたとは言えません。分かるのは、計測した回答の中でブランドが登場する割合です。Webサイトへの訪問、問い合わせ、顧客の増減を確かめるには、それぞれの記録が必要になります。

例えば、1回目は20件のAI回答のうち6件、2回目は20件のうち12件に自社名が登場したとします。割合は2倍です。これを顧客の増加として報告する前に、「顧客の記録はどこにあるか」を確認してください。

知りたいことに合う証拠を探し、それぞれの数値が示す内容を分けて整理することが、次の一歩です。

まず、言及の数から分かることを確認する

この架空の例では、両方の計測で同じ質問群と数え方を使い、回答を集めた条件も比較可能だったと仮定します。ひとつの完了回答にブランド名が何度出ても、「ブランドが登場した回答」は1件と数えます。

ブランドが登場した割合は、1回目が30%、2回目が60%です。差は30パーセントポイントで、2回目の割合は1回目の2倍になりました。これは収集した回答についての数値です。その回答を見た人数ではありません。

実際に比較する際は、質問と元の回答、収集日、言語、AIの提供元、検索モード、確認できるモデル名を保存します。取得に失敗した回答や利用できなかった結果は、別に記録してください。AI可視性の測り方では、計測条件と数値の比較について詳しく説明しています。

そのうえで、事業上の問いを分けます。Webサイトに訪問があったのか、問い合わせを受け取ったのか、営業担当者が商談の対象と判断したのか、顧客になったのか。それぞれ確認する証拠が異なります。

成果ごとに、確認する記録を分ける

報告用のシートを作り、確認したい事柄ごとに行を用意します。次の表は、参照先と記録内容の整理例です。すべての見込み顧客が、この順番で進むという意味ではありません。

確認したいこと参照する記録残す情報
計測した回答にブランドが登場したか保存したAI回答ブランドが登場した回答数、完了回答の総数、収集条件
AIからと特定できるWebサイト訪問があったかWeb解析記録された訪問数、流入元、対象期間、セッションなど集計の単位
会社に問い合わせが届いたか受信した問い合わせ実際のメッセージと受信日。同じやり取りの追加メッセージはまとめて管理
対応する商談として適切か営業担当者の確認記録相手の要望、商談としての適合性の判断、その理由
顧客になったか会社の営業記録合意した顧客の定義と、その条件を満たした証拠

例えば、サービスについて尋ねるメッセージが届けば、問い合わせを受信したことは確認できます。しかし、その依頼が提供内容に合うか、契約が成立したか、支払いがあったかは、それぞれ別の確認です。担当者が実際に確認した段階を記録してください。

営業記録には、相手をすぐに「顧客」とするよりも、「問い合わせ受信。商談としての適合性は未確認」と残す方が、現状を把握できます。元のメッセージへの参照も添えると、次の担当者が確認し直せます。

キーイベントの中身を確認してから、問い合わせとして扱う

Googleアナリティクス4(GA4)では、イベントで行動を記録します。その中で、事業上重要なものとして指定したイベントがキーイベントです。Googleの公式説明では、収集しているどのイベントでもキーイベントに指定でき、スクロールも例に挙げられています。

そのため、キーイベントという名称だけでは、問い合わせや成約を数えているか分かりません。スクロールを重要と指定しても、記録している行動はスクロールのままです。

事業成果の報告に使う前に、どの条件でイベントが記録されるかを確認します。報告シートには、例えば「ページのスクロール。問い合わせではない」と記入してください。問い合わせの受信を表す設計なら、実際の問い合わせ記録と照合してから、商談の集計に進みます。商談として適切かどうかは担当者の判断、顧客になったかどうかは対応する営業上の証拠が必要です。

解析で記録された行動と、担当者が確認した事業上の成果を、区別して報告できるようになります。

確認できた流入元と、不明な流入元を分ける

AI検索からWebサイトへの訪問が発生する場合もあります。Google Search Centralによると、AIによる概要とAIモードからのトラフィックは、Search Consoleのウェブ検索全体のデータに含まれます。その合計値だけで、AI機能からの訪問をすべて切り分けられるわけではありません。

Web解析でも、流入元の情報がはっきりしない場合があります。Googleはdirectトラフィックを、明確な参照元が分からないトラフィックとして説明しています。したがって、directの訪問というだけで、AIから来た証拠にはなりません。

報告シートでは、AIからと特定できた訪問と、流入元が不明な訪問を分けます。使ったレポート、対象期間、流入元の絞り込み条件も残してください。AIから来たように思えるという理由で、directの訪問をAIの合計に加えないようにします。

見込み顧客がAI回答を読んだ後、別の経路で連絡する可能性もあります。ただし、それは調べる余地のある可能性であり、不明な流入元をAIと断定する理由にはなりません。流入元を確認できない部分は、証拠の不足として残ります。

分かっている数値と、足りない記録を並べる

架空の「20件中6件から、20件中12件へ」という例に戻ります。訪問、問い合わせ、顧客の記録は提供されていません。報告でも、そのまま示します。

確認する項目1回目の計測・比較期間2回目の計測・比較期間
ブランドが登場したAI回答完了回答20件中6件。30%完了回答20件中12件。60%
AIからと特定できた訪問記録の提供なし記録の提供なし
受信した問い合わせ記録の提供なし記録の提供なし
適合性を確認した商談記録の提供なし記録の提供なし
確認された新規顧客記録の提供なし記録の提供なし

数値はすべて説明用です。AI回答の収集条件は比較可能と仮定していますが、実際の日付や事業成果を追う期間は設定されていません。「記録の提供なし」は不明という意味であり、0件ではありません。

問い合わせ数や顧客数を、AI回答20件で割って成約率を計算しないでください。この回答の集まりは、行動を追跡した人の集団ではありません。訪問と問い合わせの合計が別々に分かっていても、段階間の移行率を示すには、定義、期間、対応する記録の確認が必要になります。

実際の報告では、各行に開始日、終了日、タイムゾーン、参照元、数え方を添えます。問い合わせごとに、受信日と、報告の締め日までに顧客になったことを確認できたかを記録してください。その時点で話し合いが続いていれば、「商談継続中」と記入し、顧客にも失注にも数えないようにします。

答えたい問いから、次の確認を選ぶ

「顧客が増えたか」を知りたいなら、比較期間ごとの新規顧客の記録を集め、何をもって新規顧客とするかを確認します。その不足は、AI回答のサンプルを増やしても埋まりません。

「その顧客はAI経由だったか」を知りたいなら、問い合わせや営業記録と、確認できる流入元の証拠を照合します。「AIに関する施策が増加の原因か」を知りたいなら、両方の数値が上がっただけでは不十分です。他の説明と区別して、その施策の寄与を確かめる証拠が必要になります。

経営層に何を報告するかについては、CMO向け指標の解説も参考になります。見つけてもらうこと、提供内容を理解してもらうこと、会社を選んでもらうことの関係は、Visibility・Clarity・Trustの解説で扱っています。

今回の例なら、次のように報告できます。「計測したAI回答で、ブランドが登場した割合は増加した。顧客の記録が提供されていないため、顧客の増減は不明。次に、比較期間を定めて顧客記録を集める」。

担当者は次に何をすべきかが分かり、可視性の計測で確認できた内容も正確に残せます。